東京地方裁判所 平成3年(行ウ)21号 判決 1995年10月20日
東京都新宿区大京町二五番地
原告
丸中物産株式会社
右代表者代表取締役
河田陸豊
右訴訟代理人弁護士
南木武輝
同
小口恭道
東京都新宿区三栄町二四番地
被告
四谷税務署長 上田勝廣
右指定代理人
矢吹雄太郎
同
渡辺進
同
木村忠夫
同
上田幸穂
同
山本善春
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和六一年一二月一九日付でした原告の昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度以後の青色申告の承認の取消処分を取り消す。
2 被告が昭和六一年一二月二六日付でした原告の昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度の法人税についての更正(別表2記載の確定申告額を超える部分)並びに重加算税及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
3 被告が昭和六三年一〇月一一日付でした原告の昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度の法人税の更正のうち所得金額七六一二万八六一五円、税額五九五一万七六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告は、日用雑貨卸売販売業及び不動産賃貸業を営む会社であり、被告により青色申告の承認を受けていたところ、昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度(以下「六〇年三月期」という。)の法人税について、別表2の「確定申告」欄記載のとおり、青色申告書により確定申告をした。
原告は、昭和五九年六月六日、その所有する別表4の<1>ないし<4>の四筆の土地(合計一六〇・〇八平方メートル。以下、一括して「本件土地」という。)及び同表の<5>の建物(鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付四階建店舗兼居宅。以下「本件建物」という。)を、東洋總企株式会社(以下「東洋總企」という。)に売却し(以下「本件売買」という。)、その譲渡収入の金額として五億六二三五万円を益金に算入して六〇年三月期の所得金額を計算し、右確定申告をしたものである。
(二) 被告は、原告に対し、昭和六一年一二月一九日付で、六〇年三月期以後の事業年度について青色申告の承認を取り消し(以下「本件承認取消処分」という。)、次いで同月二六日付で、六〇年三月期の法人税について、別表2の「更正処分等」欄記載のとおり更正(以下「六〇年三月期更正」という。)並びに重加算税及び過少申告加算税の賦課決定(以下「六〇年三月期決定」という。)をした(以下、一括して「六〇年三月期処分」という。)。
原告は、右各処分について、異義申立て及び審査請求をしたが、その経過は別表1、2記載のとおりである。
2(一) 原告は、昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度(以下「六二年三月期」という。)の法人税について、別表3の「確定申告」欄及び「修正申告」欄記載のとおり、青色申告書により確定申告及び修正申告をした。
(二) 被告は、原告に対し、昭和六三年一〇月一一日付で、六二年三月期の法人税について、別表3の「更正処分等」欄記載のとおり更正(以下「六二年三月期更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「六二年三月期決定」という。)をした(以下、一括して「六二年三月期処分」という。)
原告は、右処分について、異義申立て及び審査請求をしたが、その経過は別表3記載のとおりである。
3 しかし、本件承認取消処分及び六〇年三月期処分は、本件売買の真実の代金額が一四億九八七〇万円であったとの誤った事実認定を前提として行われた違法なものであり、また、六二年三月期処分は、違法な本件承認取消処分を前提としてされたものであるから違法である。
よって、原告は、それら処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。ただし、昭和六〇年三月期以降については青色申告の承認が取り消されているから、原告の申告は法人税法一二一条所定の青色申告書によるものとはいえない。
3 同3は争う。
三 抗弁
1 本件売買の経緯
原告は、不動産仲介業者である株式会社アッセン(以下「アッセン」という。)の仲介により、東洋總企に対し、売買代金総額一四億九八七〇万円のうち五億六二三五万円を公表上の売買金額とし(以下、公表上の金員を「表金」という。)、残り九億三六三五万円は裏金(裏取引に係る金員をいう。以下も同じ。)とすること、そのほかに東洋總企が本件建物の賃借人である中国食品有限会社(以下「中国食品」という。)に立退料二億八五〇〇万円を支払うこととの条件で本件土地建物を売却することとした。
そして、昭和五九年六月六日、東京都港区南青山三丁目九番一号の原告所有の住宅(以下「南青山の住宅」という。)において、原告及び中国食品の各代表取締役である河田陸豊(以下「河田」という。)や東洋總企の代表取締役原義友(以下「原」という。)などの関係者が集まり、代金額を五億六二三五万円と記載した原告・東洋總企間の「不動産売買契約書」(以下「本件売買契約書」という。)及び中国食品・東洋總企間の本件建物明渡しに関する「覚書」(以下「本件覚書」という。)が取り交わされた上、原は河田に対し、住友銀行青山支店振出しの自己宛小切手(以下「預手」という。)を交付して、東洋總企が原告に支払うべき本件売買の代金のうち表金の五億六二三五万円を支払ったほか、現金で裏金の九億〇六三五万円を支払い、既に昭和五九年四月二三日に河田に対し現金で支払っていた裏金の一部三〇〇〇万円と合わせ本件売買の代金として合計一四億九八七〇万円を支払った。
2 六〇年三月期更正の適法性
(一) 六〇年三月期の所得金額
原告の六〇年三月期の所得金額は、申告に係る欠損金額に次の(1)ないし(7)の金額を加算又は減算して計算される(その計算の詳細は別表6のとおり)一〇億八二八七万〇二二一円である。
(1) 「裏金」に係る譲渡収入金額の益金算入 九億三六三五万円
右1のとおり、河田が東洋總企から裏金として受領した合計九億三六三五万円は、本件土地建物の売買代金として原告が収受したものであり、原告の六〇年三月期の所得金額の計算上益金の額に算入される。
(2) 譲渡原価否認額の損金不算入 一一七万八九四〇円
原告は、別表4の「取得年月」欄記載の日に本件土地建物を購入したものであり、本件土地についてはその取得価額(同表の「取得価額」欄記載の金額)が、本件建物については六〇年三月期における帳簿価格三六七万一一九〇円が、それぞれ本件売買による譲渡収入に係る譲渡原価となり、その合計額は一億二七〇九万一〇六〇円である。
ところが、原告は、本件土地建物の譲渡原価を一億二八二七万円として、六〇年三月期の所得金額の計算上一一七万八九四〇円を過大に損金の額に算入しており、その過大分は損金の額に算入すべきでない。
(3) 仲介手数料の損金算入 一八九〇万円
原告は、本件売買の仲介業者であるアッセンに対し、裏金の授受に関する仲介手数料として、昭和五九年四月二三日に一〇〇〇万円及び同年六月八日八九〇万円の合計一八九〇万円を支払っているから、右金額は、原告の六〇年三月期の所得金額の計算上損金の額に算入すべきである。
(4) 立退料の損金の不算入 二億四〇九五万円
原告は、本件売買に伴い中国食品に対して二億四〇九五万円の立退料を支払ったとし、それを損金の額に算入して六〇年三月期の所得金額を計算していたが、原告は、本件土地建物を現状(借家人である中国食品を立ち退かせない状態)のまま東洋總企に引き渡すとの条件で本件売買をしたのであるから、中国食品に対する立退料の支払は、東洋總企が行うべきものであり、原告がそれに加えてさらに中国食品に対し立退料を支払わなければならない合理的な理由はなく、右二億四〇九五万円を損金の額に算入することはできない。
(5) 寄付金額の損金算入 二億二三四一万円
原告は、六〇年三月期中に、右(4)の立退料として損金計上された二億四〇九五万円のうち二億二三四一万円を中国食品に対し実際に支払ったが、この支出は、原告が中国食品から何ら反対給付を受けることなく経済的利益を供与したものであり、寄付金として認容すべきである。
(6) 寄付金額の一部損金不算入 二億〇九四四万七七七〇円
右(5)の寄付金のうち、法人税法三七条二項の規定に基づいて計算される損金算入限度額一三九六万二二三〇円であるから、右限度額を超える二億〇九四四万七七七〇円は六〇年三月期の所得金額の計算上損金の額に算入することができない。
右限度額の計算の経過は次のとおりである。
<1> 所得金額の仮計(別表8の11欄) 八億九三〇六万八四七二円
<2> 寄付金の額 二億二三四一万円
<3> 寄付金支出前所得金額 (<1>+<2>)
一億一六四七万八四七二円
<4> <3>×一〇〇分の二・五= 二七九一万一九六一円
<5> 六〇年三月期末の資本金等の金額 五〇〇万円
<6> <5>×一〇〇〇分の二・五= 一万二五〇〇円
<7> 寄付金の損金算入限度額
(<4>+<6>)×二分の一= 一三九六万二二三〇円
(7) 繰越欠損金の損金算入 二〇八一万六四〇八円
別表9の繰越欠損金の合計二〇八一万六四〇八円は、法人税法五七条の規定により、原告の六〇年三月期の所得金額の計算上損金の額に算入することができる。
(二) 六〇年三月期の課税土地譲渡利益金額
(1) 本件売買による本件土地の譲渡は、昭和六二年法律第一四号による改正前の租税特別措置法六三条所定の短期所有(所有期間一〇年以下)に係る土地の譲渡であるから、土地の譲渡による「収益の額」から、その収益に係る「原価の額」及び譲渡のために「直接又は間接に要した経費の額」として政令で定めるところにより計算した金額を控除した譲渡利益金額を基礎として法人税の加算がされるが、原告は、本件土地に係る右譲渡利益金額の計算をしないで六〇年三月期法人税の申告をした。
(2) 本件売買の代金総額一四億九八七〇万円から建物代金とみられる三六七万一一九〇円を控除した一四億九五〇二万八八一〇円が、譲渡利益金額の計算上、本件土地の譲渡による「収益の額」となる。
(3) 本件土地の「原価の額」は別表10の6欄記載の金額であり、譲渡のために「直接又は間接に要した経費の額」と同表の9欄記載の金額(法定の負債利子と法定の販売費及び一般管理費の合計額)である。
(4) 右(2)の収益の額から右(3)の原価及び経費の額を控除した譲渡利益金額は一三億一九五九万五七七一円であり、この金額から、昭和六〇年法律第七号による改正前の租税特別措置法六五条の八に基づき原告が設定した特別勘定一億五〇〇〇万円を控除した一一億六九五九万五〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により千円未満の端数を切捨て)が課税土地譲渡利益金額となる。
(三) 右のとおりであるから、六〇年三月期更正は、原告の所得金額や課税土地譲渡利益金額を過大に認定したものではなく、適法に算出された法人税額を賦課するものであって、適法である。
3 六〇年三月期決定の適法性
(一) 重加算税の賦課決定
原告は、本件売買に係る譲渡収入の金額が一四億九八七〇万円であったにもかかわらず、東洋總企及びアッセンと共謀の上、虚偽の代金額を記載した本件売買契約書を作成するなどして、その譲渡収入の金額が五億六二三五万円であるかのように仮装し、その差額九億三六三五万円について、所得金額の計算の基礎となる譲渡収入の金額及び譲渡利益金額の計算の基礎となる収益の額を隠ぺいし、六〇年三月期法人税を過少に申告したものであるから、国税通則法六八条一項に基づき重加算税が賦課される。
重加算税の計算の基礎とすべき税額は、隠ぺいした譲渡収入の金額九億三六三五万円から前記支払仲介手数料一八九〇万円を控除した九億一七四五万円に対応する法人税額三億九七二五万五八五〇円(別表13の6欄)に、隠ぺいした課税土地譲渡利益金額九億三六三五万円に対応する法人税額一億八七二七円(同表の8欄)を加算した五億八四五二万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切捨て)となり、右金額に一〇〇分の三〇の割合を乗じて算出した重加算税額は一億七五三五万六〇〇〇円となるから、六〇年三月期決定は、適法に算出された重加算税を賦課するものであり、適法である。
(二) 過少申告加算税の賦課決定
原告の六〇年三月期法人税の過少申告のうち、重加算税の計算の基礎とならなかった所得金額二億〇七三五万〇三〇二円(別表13の7欄)及び課税土地譲渡利益金額二億三三二四万五〇〇〇円(同表の9欄)に係る税額は、一億一七二九万円であり、右税額に国税通則法六五条一項により一〇〇分の五の割合を乗じて算出した五八六万四五〇〇円及び右税額から五〇万円を控除した一億一六七九万円に同条二項により一〇〇分の五の割合を乗じて算出した五八三万九五〇〇円の合計一一七〇万四〇〇〇円が過少申告加算税額となるから、六〇年三月期決定は、適法に算出された過少申告加算税を賦課するものであり、適法である。
4 本件承認取消処分の適法性
既に主張したところから明らかなとおり、原告は、六〇年三月期法人税に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載したものであるから、法人税法一二七条一項三号に基づき、被告が昭和六〇年三月期以後の法人税について原告の青色申告の承認を取り消したことは適法である。
5 六二年三月期更正の適法性
(一) 原告は、六二年三月期の所得金額の計算上控除すべき繰越欠損金を六九二四万六二四二円としたうえで、所得金額を七六一二万八六一五円とする六二年三月期法人税の修正申告をした。
(二) しかしながら、原告は、昭和六〇年三月期以後の青色申告の承認を取り消されており、また、法人税法五七条に規定する繰越欠損金はすべて昭和六〇年三月期の所得金額の計算上控除されているから、昭和六二年三月期の所得金額の計算上控除すべき繰越欠損金は存在せず、原告の六二年三月期の所得金額は一億四五三七万四八五七円である。
したがって、六二年三月期更正は原告の所得金額を過大に認定したものではなく、適法に算出された法人税額を賦課するものであって、適法である。
6 六二年三月期決定の適法性
原告の六二年三月期法人税の過少申告について賦課される過少申告加算税の額は、国税通則法六五条一項により、新たに納付すべきことになった別表14の5欄の法人税額二九九八万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した一四九万九〇〇〇円と、同法六五条二項により、右税額二九九八万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した一四九万九〇〇〇円の合計二九九万八〇〇〇円となるから、六二年三月期決定は、適法に算出された過少申告加算税を賦課するものであって、適法である。
四 抗弁に対する認否
1(一) 抗弁1の事実のうち、本件売買がアッセンの仲介によるものであること、昭和五九年六月六日に南青山の住宅で本件売買契約書及び本件覚書が取り交わされたこと、東洋總企が預手を交付することにより原告に対し本件売買の代金五億六二三五万円を支払ったことは認めるが、その余の事実は否認する。
河田は、昭和五九年六月六日、同時に本件土地建物の転買取引も行われるとのことから、南青山の住宅一階を東洋總企とその転買人との取引場所として使用することを了承していたところ、当日、南青山の住宅一階に相当量の現金(札束)が運び込まれているのを目撃したことはあるが、それは本件土地建物の転売取引のためと思っていたのであって、河田が三階で本件売買契約書や本件覚書を作成し、一階に降りた時点ではその現金はなくなっており、河田が、その現金を受領したことはない。本件売買の代金額は本件売買契約書に記載された五億六二三五万円であり、原告と東洋總企との間において、被告主張の九億円余の裏金が授受されたことはない。
(二) 本件土地建物の実質的な買主は株式会社イトマンであり、同社が不動産取引にからんで極めて不透明な資金操作をし、暴利を得たことはマスコミでも盛んに取り上げられたことは周知のところであって、同社の裏金作りの工作の一環として本件売買が利用され、九億円余もの現金が原告に支払われたかのような外形を作出するため、原告に支払われもしない現金が南青山の住宅に運び込まれた疑いが濃厚である。
(三) 仮に、河田が昭和五九年四月二三日及び同年六月六日に被告主張の現金を受け取っていたとしても、これが直ちに、河田とは別の法人税を持つ原告の収入となるわけではない。
2(一)(1) 抗弁2(一)の冒頭部分は争う。
(2) 同(1)は否認する。原告は、被告主張の裏金を受領したことはない。
(3) 同(2)は認める。
(4) 同(3)は否認する。原告がアッセンに対し裏金取引に係る仲介手数料を支払った事実はない。
(5) 同(4)のうち、原告が被告主張のとおり立退料を損金の額に算入して所得金額を計算していたことは認めるが、その余は争う。原告は、東洋總企が支払った立退料とは別に、中国食品に立退料を支払っている。
(6) 同(5)及び(6)は争う。
(7) 同(7)は認める。
(二) 抗弁2(二)(1)及び(3)は認め、(2)は争う。同(4)のうち、昭和六〇年法律第七号により改正前の租税特別措置法六五条の八に基づく原告の特別勘定が一億五〇〇〇万円であることは認めるが、その余は争う。
(三) 抗弁2(三)は争う。
3 抗弁3は争う。
4 抗弁4は争う。
5 抗弁5の(一)は認めるが、(二)は争う。
6 抗弁6は争う。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び承認等目録に記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
第一六〇年三月期更正の適法性について
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 本件売買の経緯等について
抗弁1のうち、本件売買がアッセンの仲介によるものであること、昭和五九年六月六日に南青山の住宅で本件売買契約書及び本件覚書が取り交わされたこと、東洋總企が預手を交付することにより原告に対し本件売買の代金五億六二三五万円を支払ったことは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、成立に争いがない乙第三一号証の一ないし五、第三二号証の一ないし四、官公署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一ないし第一三号証、第三七号証、証人村田茂仁の証言により真正に成立したものと認められる乙第四一号証、証人小林正和の証言により真正に成立したものと認められる乙第四三号証の二、証人原義友の証言により真正に成立したものと認められる乙第四五号証、証人村田茂仁、同中川寛三、同小林正和、同原義友(後記措信しない部分を除く。)の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
1 東洋總企は、東京都港区南青山のビル建設用地の買収を計画していたが、右買収対象地内で蕎麦屋を営む土地所有者が代替地の提供を要求したため、東洋總企は、その代替地を確保しなければならなくなり、昭和五九年二月ころにアッセンから紹介を受けた本件土地が代替地として条件が良かったことから、本件土地を是非とも買収しようと考え、その仲介をアッセンに依頼し、同月一〇日、アッセンに対し、坪単価三五〇〇万円で本件土地を買い受ける旨の買付証明書を発行した。
2 アッセンの代表取締役中川寛三(以下「中川」という。)は、不動産取引の関係で以前から河田と面識があり、本件土地建物を東洋總企に売却するよう河田と交渉し、概ね、坪単価三五〇〇万円として計算した一六億九四七〇万円の半額の八億七三五万円を表金とし、そのうち二億八五〇〇万円を中国食品に対する立退料、五億六二三五万円を本件土地建物の売買代金とすること、残余の八億四七三五万円を裏金として現金で決済することとの条件で原告が東洋總企に本件土地建物を売却する旨の承諾を得た。
3 そして、東洋總企が昭和五九年三月二二日に手付金として表金二億円を支払うという段取りとなったが、東洋總企は、当日までに右二億円を工面できなかったことから、河田は、東洋總企との売買に難色を示すようになり、中川を通じて東洋總企に対し、三〇〇〇万円の違約金を支払うのでなければ売買に応じないとの意向を示したため、本件土地の取得を強く望んできた東洋總企の代表取締役の原は、何とか河田を説得して売買契約を成立させなければならないと考え、他からの借入れによって三〇〇〇万円の現金を用意し、同年四月二三日、表に出さないお金としてこれを河田に交付した。河田は、同日、中川に対し、アッセンに対する手数料として一〇〇〇万円を支払った。
4 その後、東洋總企は、南青山の用地買収計画に関し、株式会社イトマンファイナンス(以下「イトマンファイナンス」という。)を融資元とする株式会社慶屋(以下「慶屋」という。)に資金調達を依頼し、慶屋が、東洋總企の買収した右用地の転売を受けることとして、その買収資金の提供に応じることになり、本件土地建物の取得資金についても目処がたったことから、中川は、その後も河田と交渉を続け、昭和五九年五月一九日までに、河田から、前記三〇〇〇万円のほかに東洋總企が支払う金額を一七億五三七〇万円とすること、表金の内訳・金額(合計八億四七三五万円)は従前通りとし、裏金を九億〇六三五万円に増額することとの条件で、本件土地建物を東洋總企に売却する旨の承諾をとりつけ、東洋總企もこの条件で買い受けることに同意し、昭和五九年五月三一日に取引することとなった。なお、東洋總企は、右取引日に同時に本件土地建物を慶屋に転売することとした。
5 慶屋は、東洋總企から、昭和五九年五月三一日を取引日として、本件土地建物の外にもいくつかの不動産の転売を受けることになっており、その日に多額の資金を必要としたため、イトマンファイナンスから、総額四〇億円の融資を受けて取引に備えたが、預手の現金化が間に合わなかったり、本件土地建物の売買が銀行関係者に発覚したとして河田が立腹したことなどがあって、二度にわたり取引が延期され、結局、本件土地建物の売買契約の締結及び代金の決済は、河田の意向に従い、同年六月六日、原告が所有する当時空き家であった南青山の住宅で行われることになった。
6 本件土地建物の転売を受ける予定であった慶屋の代表取締役小林正和(以下「小林」という。)は、預手を換金した現金九億三〇〇〇万円及び預手八通を持参し、原及び融資元のイトマンファイナンスの代表取締役大塚要とともに、昭和五九年六月六日、南青山の住宅に赴き、その一階に右現金を運び込み、大量の札束を袋から取り出して並べた。
河田が並べられた札束を確認した後、原と河田は、河田が依頼した弁護士の立会のもとに南青山の住宅の三階で本件売買契約書を取り交わして、東洋總企と原告との間の本件土地建物の売買契約を締結した。河田は、かねてから、契約書上の代金額を表金の五億六二三五万円だけとし、同日授受される現金及び昭和五九年四月二三日に授受された三〇〇〇万円の現金については、念書や領収書など一切の書類を取り交わさない裏金として処理することを強く要望しており、本件土地の取得が必要であった原らも河田の意向を尊重せざるをえなかったため、表金だけを代金額とした本件売買契約書が作成された。
また、本件売買においては、原告が本件建物を現状のまま東洋總企に引き渡す旨約され、東洋總企が建物賃貸人の地位を承継することになっているため、原と河田は、同日、東洋總企と中国食品との間で、(1) 本件建物の賃貸借契約を合意解約する、(2) 東洋總企は中国食品に立退料二億八五〇〇万円を支払う、(3) 立退料のうち二億七五〇〇万円は同日支払う、(4) 東洋總企は、中国食品に本件建物の明渡しを三か月猶予し、明渡しと引換えに立退料の残金一〇〇〇万円を支払う旨の合意をし、本件覚書を取り交わした。
7 原は、右同日、本件売買契約書及び本件覚書の作成後、運び込まれた前記現金のうち二三六五万円を抜き取った残余の九億〇六三五万円を、原告に対する本件売買の代金の裏金の支払として河田に引き渡した。また、原は、小林から受け取った前記八通の預手のうち三通(合計五億六二三五万円)を、原告に対する本件売買の代金の表金の支払として、二通(合計二億七五〇〇万円)を、中国食品に対する立退料の一部の支払として、それぞれ河田に交付した。
なお、原が抜き取った二三六五万円のうち一三〇〇万円は、同日及びその翌日の昭和五九年六月七日、中川に対する手数料及び第三者への謝礼に充てる趣旨で、原から中川に支払われ、小林が南青山の住宅に持参した預手八通のうち残りの三通は、東洋總企からアッセンへの手数料の支払や借入金の弁済に充てられた。
南青山の住宅には、右契約締結の当日、河田の親戚の中国人がおり、その者が同住宅一階に運び込まれた現金を見張っていたが、河田が九億〇六三五万円の引渡しを受けた後、右現金はスーツケースに詰め込まれ、車で待機していた二人組がそのスーツケースを搬出した。
8 その後、原告は、昭和五九年六月八日ころ、アッセンに対し、裏金に係る取引分の仲介手数料として八九〇万円を支払い、また、東洋總企は、中国食品から本件建物の明渡しを受け、昭和五九年九月六日、立退料の残金一〇〇〇万円を支払った。
なお、原告は、六〇年三月期中に、中国食品に対し、本件建物の明渡しに伴う立退料という名目で二億二三四一万円を支払った。
9 なお、原告は、本件売買契約書に記載された五億六二三五万円のみを本件売買に係る譲渡収入の金額として益金の額に算入して経理処理し、六〇年三月期の所得金額を計算し、法人税の申告をした。
右のとおり認められるところ、証人原義友の証言中、同人が昭和五九年六月六日に南青山の住宅に運び込まれた現金の中から二三六五万円を抜き取ったことがないとする部分は、前掲の証拠に照らしにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
ところで、原告は、本件売買に際し裏金が授受されたことはなく、河田が昭和五九年六月六日に南青山の住宅に運び込まれた多額の現金(河田が同日相当量の現金が運び込まれているのを目撃したこと自体は原告も否定しないところである。)を受領したことはない旨主張するが、本件売買に至る経緯及び南青山の住宅へ九億三〇〇〇万円の現金が運び込まれた経緯に関する前掲各証人の証言及びそれらの者の質問てん末書における供述は、極めて具体的かつ詳細であり、右九億三〇〇〇万円に関する預手の記録その他金融機関の記録とも符合するものであって、それら証言及び供述は十分に信頼性があるというべきであるし、むしろ、九億三〇〇〇万円もの現金がわざわざ原告所有の空き家に運び込まれたこと、同住宅には河田の親戚の者がおり、運び込まれた現金を見張っていたことなどからすれば、原が二三六五万円を抜き取った後の九億〇六三五万円は、河田の関係者によって南青山の住宅から搬出されたと考えるほかないというべきであって、右現金授受を否認する原告の主張は採用することができない。
三 原告の六〇年三月期の所得金額
1 本件売買に係る譲渡収入の金額について
前記認定の事実によれば、昭和五九年四月二三日に授受された三〇〇〇万円は、東洋總企が、本件土地建物の売却方の承諾を得るために必要な金員として、その所有者である原告の代表取締役河田に交付した金員であるから、本件土地建物の売買の対価として授受されたものと認められ、また、同年六月六日に授受された九億〇六三五万円は、本件売買の代金中の裏金であり、本件土地建物の対価として授受されたことが明らかである。したがって、その合計九億三六三五万円は、原告の六〇年三月期の所得金額が計算上、本件売買に係る譲渡収入の金額として益金の額に算入すべきである。
2 譲渡原価について
抗弁2(2)は当事者間に争いがなく、原告の申告に係る本件土地建物の譲渡原価(合計一億二八二七万円)のうち、一一七万八九四〇円は原告の六〇年三月期の所得金額の計算上損金の額に算入すべきでない。
3 仲介手数料について
前記認定の事実によれば、原告が中川に対し昭和五九年四月二三日に現金で支払った一〇〇〇万円及び同年六月八日ころに現金で支払った八九〇万円の合計一八九〇万円は、いずれも、原告が本件土地建物を東洋總企に売却するについて仲介に携わったアッセンに対して支払った手数料と認められるから、六〇年三月期の所得金額の計算上、本件売買に係る譲渡費用として損金の額に算入すべきである。
4 中国食品に対する立退料について
原告が中国食品に対する立退料二億四〇九五万円を損金の額に算入して六〇年三月期の所得金額を計算していたことは、当事者間に争いがない。
しかし、前記認定の事実に照らせば、原告は、賃借人である中国食品を立ち退かせないまま、本件売買に基づいて本件建物を東洋總企に引き渡したのであり、中国食品は、本件売買によって本件建物の所有者兼賃貸人となった東洋總企との間で建物賃貸借契約を合意解約し、同社から二億八五〇〇万円の立退料の支払を受け、同社に建物を明け渡したものであるから、原告が中国食品に対し建物賃貸借を解消するために立退料を支払う合理的な理由はないというべきである。
それにもかかわらず、原告が六〇年三月期中に中国食品に対し立退料名目で二億二三四一万円の金員を支払ったことは前記認定のとおりであり、その支出は、中国食品に対し反対給付なしにされた経済的利益の供与(法人税法三七条にいう寄付金)といわざるをえないから、その寄付金支出のうち法人税法三七条二項及び法人税法施行令七三条一項一号によって計算された限度額だけが、原告の六〇年三月期の所得金額の計算上損金の額に算入できるにすぎないところ、その限度額は、被告主張のとおりの計算によって算出される一三九六万二二三〇円である(なお、六〇年三月期末時点での原告の資本金の額が五〇〇万円であることは、弁論の全趣旨により明らかである。)。
したがって、原告が六〇年三月期の所得金額の計算上損金の額に算入した立退料二億四〇九五万円(実際の支出額二億二三四一万円より多額である。)のうち、右一三九六万二二三〇円を超える二億二六九八万七七七〇円は損金の額に算入すべきでないことになる。
5 繰越欠損金について
抗弁2(一)(7)は当事者間に争いがなく、別表9の繰越欠損金の合計二〇八一万六四〇八円は、原告の六〇年三月期の所得金額の計算上損金の額に算入することになる。
6 原告が申告した六〇年三月期の欠損金額四一九三万〇〇八一円に、右1の譲渡収入の金額九億三六三五万円、右2の譲渡原価の損金不算入額一一七万八九四〇円及び右4の立退料に係る損金不算入額二億二六九八万七七七〇円を加算し、右3の仲介手数料一八九〇万円及び右5の繰越欠損金二〇八一万六四〇八円を減算して計算される一〇億八二八七万〇二二一円が、原告の六〇年三月期の所得金額である。
四 原告の六〇年三月期の課税土地譲渡利益金額
抗弁2(二)(1)は当事者間に争いがない。
そこで、まず本件土地の譲渡に係る譲渡利益金額についてみるに、その計算上「収益の額」とされる金額は、本件売買の代金額一四億九八七〇万円から、本件売買時点における本件建物の帳簿価額三六七万一一九〇円(この点は当事者間に争いがない。)を控除した一四億九五〇二万八八一〇円とみるのが相当であるところ、本件土地の「原価の額」が別表10の6欄記載の金額であり、譲渡のために「直接又は間接に要した経費の額」が同表の9欄記載の金額であること(抗弁2(二)(3))は当事者間に争いがないから、これらを右「収益の額」から控除した本件土地の譲渡利益金額は一三億一九五九万五七七一円となる。
そして、昭和六〇年法律第七号による改正前の租税特別措置法六五条の八に基づく特別勘定の金額が一億五〇〇〇万円であることは当事者間に争いがないから、結局、これを右譲渡利益金額から控除した一一億六九五九万五〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により千円未満の端数を切捨て)が原告の六〇年三月期の課税土地譲渡利益金額となるということができる。
五 以上のとおりであるから、原告の六〇年三月期の所得金額を一〇億八二八七万〇二二一円、課税土地譲渡利益金額を一一億六九五九万五〇〇〇円とした六〇年三月期更正には、原告の所得金額及び課税土地譲渡利益金額を過大に認定した違法はなく、これにより賦課された法人税額も法人税法、租税特別措置法及び国税通則法に従って適法に算出されたものと認められる。
第二六〇年三月期決定の適法性について
一 重加算税額について
前期認定の事実によれば、原告は、虚偽の代金額を記載した本件売買契約書により本件売買の代金額が五億六二三五万円であるかのように仮装し、本件売買による譲渡収入の金額九億三六三五万円を隠ぺいしたものであり、原告の六〇年三月期法人税の過少申告のうち、隠ぺいに係る所得金額九億一七四五万円(右九億三六三五万円から前期認定の仲介手数料一八九〇万円を控除した金額)に対応する法人税額は三億九七二五万五八五〇円(別表13の6欄の金額)、隠ぺいに係る課税土地譲渡利益金額九億三六三五万円に対応する法人税額は一億八七二七万円(同表の8欄の金額)であるから、右法人税額合計五億八四五二万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切捨て)の過少申告については重加算税が賦課されることになるところ、六〇年三月期決定によって賦課された重加算税の額は、国税通則法に従って適法に算出された税額と認められる。
二 過少申告加算税額について
原告の六〇年三月期法人税の過少申告のうち、重加算税の計算の基礎とならない所得金額二億〇七三五万〇三〇二円に対応する法人税額は七〇六四万二八六〇円(同表の7欄の金額)、重加算税の計算の基礎とならない課税土地譲渡利益金額二億三三二四万五〇〇〇円に対応する法人税額は四六六四万九〇〇〇円(同表の9欄の金額)であるから、これら法人税の過少申告については、過少申告加算税が賦課されることになるところ、六〇年三月期決定によって賦課された過少申告加算税の額は、国税通則法に従って適法に算出された税額と認められる。
第三本件承認取消処分の適法性について
前記認定の事実に照らせば、原告は、六〇年三月期の所得金額の計算の基礎となる帳簿書類に取引の一部を隠ぺい・仮装して記載したことが明らかであるから、被告が、法人税法一二七条一項三号により、六〇年三月期に遡って原告の青色申告の承認を取り消したことは適法である。
第四六二年三月期処分の適法性について
一 請求原因2の事実(原告の申告が青色申告書によるものといえるかどうかの点を除く。)及び抗弁5(一)の事実は、当事者間に争いがない。
そして、原告が六〇年三月期以後青色申告の承認を取り消されていることは前示のとおりであり、また、六〇年三月期より前の控除未済欠損金は、前記のとおり、すべて六〇年三月期の所得金額の計算上損金の額に算入されているから、六二年三月期において所得金額の計算上控除すべき繰越欠損金は存在しないというべきであって、原告の六二年三月期の所得金額は、その修正申告に係る所得金額七六一二万八六一五円に、損金の額に算入することができない申告に係る欠損金額六九二四万六二四二円を加えた一億四五三七万四八五七円である。
したがって、六二年三月期更正には、原告の所得金額を過大に認定した違法はなく、これにより賦課される法人税額も法人税法及び国税通則法に従って適法に算出されたものと認められる。
二 六二年三月期決定は、六二年三月期更正により新たに納付すべきこととなった法人税額を基礎として、国税通則法に従って適法に算出された額の過少申告加算税を賦課するものと認められる。
第五結論
以上の次第で、被告がした本件承認賦課取消処分、六〇年三月期処分及び六二年三月期処分はいずれも適法であり、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 橋詰均 裁判官 徳岡治)
(別表1)
青色申告承認取消処分等の経緯
<省略>
(別表2)
課税処分等の経緯
<省略>
(別表3)
課税処分等の経緯
<省略>
(別表4)
本件土地建物の明細
<省略>
<省略>
(別表5)
港区南青山2-272の土地の取得価額の計算
<省略>
(別表6)
更正後の所得金額の明細(加算税の対象所得金額内訳)
<省略>
(別表7)
更正後の所得金額の明細(加算税の対象所得金額内訳)
<省略>
(別表8)
寄附金の損金算入限度額の計算
<省略>
(別表9)
繰越欠損金の損金算入額明細
<省略>
(別表10)
課税土地譲渡利益金額の計算(昭和60年3月期)
<省略>
(別表11)
措置法施行令38条の4第6項に規定する概算法
<省略>
(別表12)
譲渡した本件土地の帳簿価額の累計額
<省略>
(別表13)
加算税計算表
<省略>
(別表14)
加算税計算表
<省略>